２月１６日（火） 　ただ今の時刻、17日０：４０．ナトラージ・ホテルにいる。本来ならシムラ ー行きの列車の窓から、真っ暗な外の景色に眼を移しながら、もの思いに でもふけっている頃だ。列車に乗り遅れたわけではない。僕らの手にした キップが何故か昨日15日の日付になっていたためである。 　オールド・デリーの駅で、一時間以上も車掌とすったもんだした挙句、一 向に事は進展しないまま、ついに列車をお見送りするはめになった。それ まで、乗客と荷物ともの売りとポーターとでごったがえしていたプラット・ホ ームは、僕とラッキー氏とその荷物だけがポツンと取り残されて、夜更け の駅らしい静けさに包まれた。その傍らでさっきまでチャイを売っていた青 年や雑誌売りのおじさんが、不思議そうな顔で僕らを見やりながら、帰り 支度をしていた。124ルピーのシムラー行きのキップがただの紙切れにな った瞬間、やり場のない腹立たしさが込み上げてきて、僕はインド人全部 が敵のように思えてきた。予約は確かに16日の列車をとったのに、キップ 売りの奴が15日のキップをよこしたのだ。ごく普通のキップの裏面にボー ルペンで１５／２／８２と書きなぐってあった。最もその事が解かったのは 発車の一時間程前で、車掌に指摘されてみてなんとか読めたのだが、こ のキップを手にした時それが数字だなどとは思いつきもしなかった。何か サインの類いか、もしくはヒンドゥ語で列車の名前でも書いてあるのかと思 って気にもとめなかった。僕らがいくら車掌に向かって"切符売りのミス・テ イクだ"と騒いでみても"何故確かめなかったのだ"と切り返されては何とも 答えようがない。日本ではありえない事が、インドでは簡単におこりうる事 を知った。それにしても、こんな初歩的なミスを天下 の国鉄職員が犯していながら、わびる様子もなく平 然と僕らの不注意を責めたてて堂々としているとこ ろなどは、立派としか言いようがない。"自己主張 の強い人達だなぁ"と、今こうして書いていて、くや しさを通り越して感心させられてしまった。 　くそ！明日もう一度トライしてみる。 　"ネバー・ギブアップ"だ！！

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