２月１７日（水） 昼過ぎ"バローダ・ハウス"という名の予約オフィスへ行き、列車の予約を とる。そこからオート三輪をひろい予約用紙を持って、コンノート広場近くに あるキップ売り場へ行く。バローダ・ハウスで2時間、キップ売り場で1時 間、たった2枚のキップを買うために、3時間以上も費やした。それでもこの 前キップを買ったときよりは、ずっと早かった。 　今回はシムラー行きではなく、シムラーより北西に位置するパタンコート までのキップを買った。ここからなら目指すダラムサラーまで、バスで４時 間ほどで行けることを確かめた。キップもしっかり確かめた。１７／２／８２ と書かれてあるのを何度も確認した。発車時刻もしつこいぐらいに確認し た。２０：５０発である。発車の１時間以上も前に、オールド・デリーの駅に 行き、８番ホームの中央に荷物をおろし、それからプラット・ホームの掲示 板に貼りだされている寝台予約者の名簿に目を通す。前回の"ミス・テイク "の日には、掲示板に僕らの名前は貼り出されていな かった。ひとつめの掲示板には、ふたりの名前は見 当たらなかったが、ふたつめの掲示板に名前を見つ けた時、飛び上がりたいほど嬉しくなって、僕とラッキ ー氏は"やったあ"といいながら堅い握手をかわした。 僕などは、もうそれだけですべての旅がうまくいったよ うな充実感に満たされてウキウキしていたが、やがて 消えた。 　僕らの乗るべき列車が現れない。２０分経ち、３０分が過ぎ、１時間待っ てもやって来ない。その間、僕とラッキー氏は、あっりの人にこっちの人に とキップを見せながら"私はここで待っていてもいいのだろうか"と訊ねてま わった。 　Ａは向うのホームだといい、Ｂはホームの端の方へ行けといい、その横 からＣはここでいいんだという。果ては、"何故お前はニュー・デリーの駅へ 行かないのだ"というものまで出現して、やがて彼らは僕らのことなどすっ かり忘れたように議論に熱中していった。僕は不安でいっぱいになる。 　そのうち、品のいい裕福そうな若い夫婦を見つけたので、彼らに訊ねて みた。とてもきれいな英語を話す誠実そうな青年で、僕らのキップを持って 掲示板のところまで行き、名前と車両番号を確めた上で、僕らが間違った 場所にいないことを教えてくれた。 　僕が今日まで出会ったインド人の中では、一番きれいな英語をしゃべっ ていた。なかには"エアー・ポート"のことを"エアル・ポート"という奴もい る。タクシーの運転手に、」いくら"エアー・ポートへ行ってくれ"と話しても 通じないため、英語の発音が悪いのだろうかと、自身を失いかけていると ころへ、突然"オー・エアル・ポート"とくる。それも自身たっぷりの顔でい う。どっちのイントネーションがおかしいのかわからなくなってくる。 　僕らの乗り込んだ車両は、１等寝台車でふたり用の個室である。ラッキ ー氏は列車に乗り込むとサッサと寝袋を敷いて寝てしまった。列車は予定 の時刻から２時間ほど遅れて、ひと言のお詫びもなく無言のまま、２３：００ に発車した。

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